遅れているのは、工事ではありません

「原状回復に3週間かかった」という話を聞くと、工事に3週間かかったように聞こえます。しかし実際に職人が現場に入っている日数は、ワンルームのクロスと床とクリーニングなら、合わせて2〜4日程度です。

では残りの2週間以上は何をしているのか。待っています。

見積もりが出るのを待ち、大家の返事を待ち、職人の空きを待ち、資材の入荷を待ち、写真撮影を待つ。工期の大半は、誰も何もしていない時間で構成されています。

だとすれば、縮めるべきは職人の作業速度ではありません。待ち時間です。 そしてこれは、不動産投資家(大家)が自分の判断で縮められます。

退去から募集開始までを分解する

原状回復は「工事」というひとつの塊ではなく、9つの工程でできています。

#工程遅れやすさ誰が握っているか
1退去日の確定・鍵の返却入居者
2退去立会い大家・管理会社
3業者への現地確認依頼大家
4見積もりの作成業者
5見積もりの承認最も高い大家
6職人の日程確保中(繁忙期は高)業者
7工事職人
8完了確認・写真撮影大家・管理会社
9募集開始(掲載)仲介会社

遅れやすさが「高」の工程を見てください。2・3・5は、大家が動けば動くものです。 工程7の工事だけが速くなっても、全体はほとんど縮みません。

1日の遅れが、いくらに相当するか

前提を置いて計算します。

家賃空室1日あたりの損失10日短縮した場合
月60,000円約2,000円約20,000円
月70,000円約2,300円約23,000円
月90,000円約3,000円約30,000円
月120,000円約4,000円約40,000円

※月額家賃を30日で割った単純計算です。仕組みを説明するための目安であり、実際には募集条件や時期によって埋まるまでの期間は変わります。

ここで重要なのは、この損失が見積書のどこにも書かれていないことです。工事費は請求書に載りますが、空室10日分は誰も請求してきません。だから見えず、だから軽く扱われます。

「安いが3週間かかる見積もり」と「少し高いが1週間で終わる見積もり」を比べるときは、この2週間分を金額に換算して足してください。 順位が入れ替わることは珍しくありません。

大家が縮められる3か所

① 立会いの日程を、退去日と同じ日にする

退去日と立会い日を別の日に設定すると、それだけで数日空きます。鍵の返却と立会いを同じ日にまとめるだけで、工程1と2が1日に圧縮されます。

さらに、立会いの場に業者の現地確認を同席させられれば、工程3も同じ日に終わります。3工程が1日になります。

② 見積もりの承認を「その日のうちに」返す

実務でいちばん時間が溶けるのがここです。見積もりが届いてから承認まで3日〜1週間空くことは、めずらしくありません。忙しい、他社と比べたい、金額に納得できない——理由はいろいろあります。

対策は「判断基準を先に決めておくこと」です。

  • いくらまでなら即決するか(例:15万円以内は確認せず承認)
  • どこまでの仕様を標準とするか(クロスは量産品グレード、床はCF、など)
  • 何が出てきたら立ち止まるか(下地のやり直し、給排水、シロアリなど)

基準が決まっていれば、見積もりは「読む」のではなく「照合する」作業になります。 5分で終わります。

③ 完了写真を、職人に撮ってもらう

工事が終わってから撮影のために現地へ行くと、そこで数日空きます。完了時に職人が撮った写真をそのまま募集に回せるようにしておけば、この待ちが消えます。

依頼のときに「完了写真を各部屋、引きで1枚ずつお願いします」と一言添えるだけです。撮影の指定のしかたは遠方の物件の原状回復をどう回すかでも扱っています。

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10日と20日、何が違ったのか

同じ工事内容で、段取りだけが違う2つのケースを並べます。

工程段取りが悪い場合段取りを決めてある場合
退去〜立会い4日0日(同日)
立会い〜現地確認3日0日(同席)
現地確認〜見積もり到着3日2日
見積もり〜承認5日0日(即日)
承認〜着工4日3日
工事3日3日
完工〜撮影3日0日(職人が撮影)
合計25日8日

※工程の日数は、実務上ありうる並びを示すための例です。実際は物件の規模、工事の内容、時期、業者の体制によって変わります。

注目してほしいのは、工事の3日はどちらも同じだという点です。差がついたのは、すべて工事の前後です。家賃7万円なら、17日で約39,000円の違いになります。

よくある誤解

「職人を急かせば早く終わる」

工事日数はほぼ動きません。乾燥時間や工程の順番(下地→クロス→クリーニング)は物理的に決まっており、詰めれば仕上がりに出ます。急かして得られる1日と、仕上がりが荒れて内見で決まらないリスクは釣り合いません。

「繁忙期は仕方がない」

1〜3月は職人の予定が埋まりやすく、承認が遅れると次の空きが2週間先になることがあります。だからこそ繁忙期こそ、承認の速さが効きます。 準備のしかたは1〜3月の繁忙期に向けて、夏のうちに決めておくことにまとめました。

「複数社に見積もりを取ると遅くなる」

順番に取れば遅くなりますが、同時に取れば変わりません。 1社に依頼して待ち、断ってまた次に依頼する、という進め方が時間を食います。同じ現況写真を渡して同時に依頼すれば、待ち時間は1回分で済みます。

まとめ

  • 工期の大半は工事ではなく待ち時間。職人が現場にいる日数は数日
  • 空室1日あたりの損失は家賃÷30。見積書に載らないので見落とされる
  • 大家が縮められるのは①立会いの同日化 ②承認の即日化 ③完了写真の職人撮影
  • 判断基準を先に決めておけば、見積もりの承認は5分で終わる
  • 相見積もりは順番にではなく同時に取れば、工期には響かない

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出典

  • 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
  • 国土交通省 引越し件数の統計(大手引越事業者の月別件数)

※本記事の金額・日数はいずれも仕組みを説明するための一般的な目安・試算です。物件の規模、工事の内容、時期、地域により変動します。特定の事業者を評価・批判するものではありません。