繁忙期に業者を探し始めると、間に合いません

賃貸の需要は1年を通して均等ではありません。進学・就職・異動が重なる1〜3月に、部屋探しが集中します。 国土交通省が集計している大手引越事業者の件数でも、ピークの3月は通常期の約2倍に達します。4月1日入居を狙う人は、1月下旬から2月上旬に物件を探し始めます。

不動産投資家(大家)にとって、この時期は年間で最も部屋が決まりやすい期間です。 同じ部屋、同じ家賃でも、7月に募集を出すのと2月に募集を出すのでは、問い合わせの数が違います。

そして同じ理由で、この時期は職人の予定も埋まります。 退去が集中すれば原状回復も集中するからです。2月に「業者を探そう」と動き始めると、着工が3週間先になることは珍しくありません。

繁忙期の勝負は、繁忙期には決まりません。夏から秋のうちに決まります。

閑散期にやることは、工事ではなく「決めること」

夏から秋にかけて決めておくべきことは、3つだけです。

決めること内容効果
① 標準仕様クロスのグレード、床の材種、クリーニングの範囲を先に決める毎回の判断が「照合」になり、5分で終わる
② 承認基準いくらまでなら確認せず承認するかを金額で決める見積もり承認の待ち時間が消える
③ 手配先依頼できる相手を、繁忙期の前に複数確保しておく1社が埋まっていても止まらない

いずれも「先に決めておくだけ」で、費用はかかりません。 それでいて、繁忙期の工期に最も効きます。

① 標準仕様を決める

毎回の退去で「どのクロスにするか」を考えていると、そのたびに数日が消えます。物件ごとに標準を決めてしまってください。

  • クロス:量産品グレードを基本にするか、水回りだけ機能性クロスにするか
  • :CFか、フローリングか。材種によって費用負担の考え方が変わります
  • クリーニング:エアコン内部、レンジフード分解、浴室追い焚き配管をどこまで含めるか
  • 建具:網戸の張替えとパッキン交換を毎回入れるか

標準を決めておけば、見積もりは「読む」ものではなく「照合する」ものになります。床の材種による違いは原状回復と床材|クッションフロアとフローリングで、負担の考え方がまったく違うで整理しました。

② 承認基準を金額で決める

原状回復の工期でいちばん時間が溶けるのは、見積もりが届いてから承認するまでです。ここに3日から1週間かかることは珍しくありません。

「15万円以内で標準仕様なら即承認、それを超えたら内訳を確認する」——この一行を決めておくだけで、繁忙期に数日を稼げます。工程全体の縮め方は原状回復の工期を1週間縮める段取りにまとめています。

③ 手配先を複数確保しておく

繁忙期に1社しか選択肢がないと、その1社が埋まった時点で止まります。閑散期のうちに、依頼できる相手を増やしておいてください。

閑散期は職人にとっても仕事が薄い時期です。この時期のほうが、話を聞いてもらいやすく、丁寧に見てもらえます。 繁忙期に初めて連絡するより、条件のすり合わせもしやすくなります。

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月ごとの段取り

時期やることねらい
8〜9月標準仕様を決める。手配先の候補に連絡を取る閑散期のうちに関係を作る
10月承認基準を金額で決める。写真依頼のテンプレートを作る判断を仕組みに落とす
11月更新時期の入居者を確認し、退去の可能性を把握する1〜3月の退去を予測する
12月退去予告が出た部屋の手配を先に押さえる職人の予定が埋まる前に確保する
1〜3月決めた基準どおりに流す。判断で止まらない最も決まりやすい時期に募集を出す

11月の「退去の予測」は見落とされがちですが、効きます。 賃貸借契約の解約予告は1か月前が一般的です。つまり2月に退去が出る部屋は、1月に予告が来ます。それを待つのではなく、契約更新の時期と入居年数からあたりをつけておくということです。

日本賃貸住宅管理協会の調査では、平均居住期間は単身で3年3か月、ファミリーで5年3か月(全国平均)とされています。この年数に近づいている部屋は、退去の可能性を頭に入れておく、という程度で十分です。

数字で見ると、どれくらいの差か

前提を置いて比較します。家賃7万円の部屋で、2月上旬に退去が出たとします。

準備なし準備あり
業者探し5日0日(決めてある)
見積もり〜承認6日1日(基準で即決)
着工待ち14日(繁忙期で埋まっている)4日(先に押さえてある)
工事3日3日
募集開始まで28日8日
募集を出せる時期3月上旬2月中旬

※日数は、繁忙期に起こりうる並びを示すための例です。実際は物件の規模、地域、業者の体制によって変わります。

差は20日分の家賃、約47,000円です。しかし本当の差はそこではありません。 2月中旬に募集を出せるか、3月上旬になるかで、繁忙期のどこに乗れるかが変わります。

4月入居を探している人は1月下旬から動いています。3月上旬に募集を出すと、その層はもう部屋を決めています。1か月の遅れではなく、次の繁忙期まで1年待つことになりかねません。

よくある誤解

「繁忙期に退去が出たら運が悪い」

逆です。繁忙期の退去は、最も決まりやすい時期に募集を出せるチャンスです。運が悪いのは、そのチャンスに工期が間に合わないことです。

「閑散期に退去が出たら、工事を急ぐ必要はない」

閑散期こそ、仕上がりで差がつきます。 動いている人が少ない時期に選ばれるには、内見での印象が効きます。急ぐ必要は繁忙期ほどではありませんが、仕様を落とすタイミングではありません。

なお、閑散期は職人の予定に余裕があるため、丁寧に見てもらいやすい時期でもあります。

「管理会社に任せているから、こちらで準備することはない」

管理を委託していれば、手配は任せられます。戸数が多い場合や遠方物件では合理的な選択で、どれが正解ということはありません。

そのうえで、標準仕様と承認基準を先に伝えておくと、管理会社側も判断を仰ぐ回数が減り、動きが速くなります。 任せることと、基準を渡しておくことは両立します。

まとめ

  • 賃貸の部屋探しは1〜3月に集中する。引越し件数のピーク3月は通常期の約2倍
  • 繁忙期は職人も埋まる。探し始めるのが2月では遅い
  • 夏から秋に決めるのは①標準仕様 ②承認基準 ③手配先の3つ。費用はかからない
  • 11月に入居年数から退去のあたりをつけておく(単身3年3か月/ファミリー5年3か月が全国平均)
  • 差は家賃20日分ではなく、繁忙期のどこに乗れるか

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出典

  • 国土交通省 引越し件数の統計(大手引越事業者の月別件数)
  • 公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会「日管協短観」(平均居住期間の調査)
  • 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」

※本記事の金額・日数はいずれも仕組みを説明するための一般的な目安・試算です。地域、物件の規模、時期、業者の体制により変動します。特定の事業者を評価・批判するものではありません。