床の見積もりは、まず「材種」を確認する

原状回復の金額を大きく動かすのは、クロスと床の2つです。この点は原状回復と不動産投資家|費用・利回り・空室期間の関係を整理するでも整理しました。

ただし床には、クロスにはない厄介さがあります。材種によって、費用負担の考え方がまったく変わるのです。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、クッションフロア(CF)やカーペットの耐用年数は6年とされ、6年経過時点で残存価値が1円になる線を引いて負担割合を決めます。ここはクロスと同じ扱いです。

ところがフローリングは違います。 ガイドラインは、フローリングについて「長期間の使用に耐え、部分補修が可能なため、経過年数の考え方になじまない」として、部分補修では経過年数を考慮しないとしています。全体を張り替える場合のみ、建物の耐用年数を用いて経過年数を考慮します。

つまり、同じ「床の傷」でも、CFとフローリングでは扱いが変わるということです。見積書を見たら、まず「その部屋の床は何でできているか」を確認してください。

材種ごとの扱いを一覧にすると

材種耐用年数の扱い実務上の意味
クッションフロア6年で残存価値1円入居が長いほど借主への請求額は小さくなる
カーペット6年で残存価値1円同上。汚れが残りやすく交換頻度は高い
フローリング(部分補修)経過年数を考慮しない入居年数に関わらず、補修範囲の実費が基準になる
フローリング(全面張替え)建物の耐用年数で考慮木造・RCなど構造によって線の引き方が変わる
畳表消耗品扱い・経過年数を考慮しない畳床は6年。表と床で扱いが分かれる

ここで押さえておきたいのは、これらはすべて「借主にいくら請求できるか」の話だということです。2020年施行の改正民法621条により、通常損耗と経年変化は賃借人の原状回復義務から除外されています。日焼けによる色あせ、家具のへこみ、歩行による摩耗は、貸主(大家)の負担です。

※上記はガイドラインの考え方を整理したものです。実際の負担区分は契約内容や個別の状況によって判断が分かれます。

部分補修と全面張替えの分かれ目

実務でいちばん迷うのが、「傷1か所のために全面を張り替えるべきか」です。判断材料は3つあります。

① 補修跡が目立つかどうか

フローリングの部分補修は、色合わせの技術で仕上がりが大きく変わります。うまくいけば内見者は気づきません。逆に、色が合わなければ「補修跡がある部屋」として印象に残ります。

判断の目安は「立った目線で、部屋に入って3秒で気づくか」。しゃがんで探せば分かる程度なら部分補修で十分です。

② 傷が何か所あるか

部分補修は1か所あたりの単価で積み上がります。か所数が増えると、途中で全面張替えの金額を追い抜きます。

状態考え方
1〜2か所、範囲が小さい部分補修が有利になりやすい
3〜5か所、部屋全体に散らばる合計額を全面張替えと比較する
全体に摩耗・変色がある張替え。部分補修しても他が古びて見える

③ 次にいつ手を入れるか

今回部分補修で済ませても、次の退去でまた床に手を入れる可能性があります。2回に分けて出す費用と、今回まとめて張り替える費用を比べてみてください。

床は家具を入れたあとでは触れません。空室のいまが、いちばん安く工事できるタイミングです。

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数字で見ると、どれくらいの差になるか

前提を置いて試算します。洋室6畳(約10㎡)の床を想定します。

ケース内容考え方
A:CF全面張替え10㎡ ×(㎡単価)+ 撤去・処分面積で決まる。単価と数量を確認する
B:フローリング部分補修1か所あたりの単価 × か所数か所数が増えると急に膨らむ
C:フローリング全面張替え10㎡ ×(㎡単価)+ 撤去・処分下地の状態次第で追加が出やすい

ここで見るべきは金額そのものより、「何を単位に積算しているか」です。CFと全面張替えは㎡単価×面積、部分補修はか所単価×か所数。単位が違うものを並べて「安いほう」と決めても、比較になっていません。

見積書に「床工事 一式」とだけ書かれている場合は、㎡数かか所数のどちらで積んだのかを聞いてください。 この確認だけで、金額の妥当性はかなり判断できるようになります。分解のしかたは原状回復の見積書「一式」を分解するで詳しく扱っています。

※上記は仕組みを説明するための目安です。単価は地域・材料グレード・数量・下地の状態によって変わります。

よくある誤解

「6年住んだら床の費用は請求できない」

材種によります。 CFやカーペットなら残存価値はごくわずかになりますが、フローリングの部分補修は経過年数を考慮しません。「6年」で一律に判断すると誤ります。

また、経過年数を超えた設備であっても、借主が故意・過失で壊した場合には、補修工事に伴う費用の負担を求められることがあります(ガイドラインの考え方)。材料の残存価値がゼロでも、工事そのものは発生するためです。

「床は張り替えるより上から重ねたほうが安い」

既存の床の上に重ねる工法は、撤去と処分が不要になるぶん有利に見えます。ただし床が上がるため、建具の下端やドアの開閉に干渉することがあります。 建具の調整費が乗れば差は縮みます。事前に確認しておく項目です。

「クロスと同じ業者に頼めば床も安くなる」

まとめて発注すれば移動と養生が1回で済むため、効率が上がるのは確かです。 ただし床とクロスは別の職種であることも多く、実態は業者によって異なります。「まとめたから安い」と決めつけず、内訳で確認してください。

まとめ

  • 床は材種によって耐用年数の扱いが違う。CFは6年、フローリングの部分補修は経過年数を考慮しない
  • 通常損耗・経年変化は貸主負担(民法621条)。日焼け・へこみ・歩行摩耗はここに入る
  • 部分補修か全面張替えかは、目立つか/か所数/次にいつ触るかの3点で判断する
  • 見積書は㎡単価かか所単価かを確認する。単位が違えば比較できない
  • 空室のいまが、床にいちばん安く手を入れられるタイミング

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出典

  • 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
  • 国土交通省住宅局「『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』に関する参考資料」(令和5年3月)
  • 民法第621条(賃借人の原状回復義務)

※本記事の金額・数量はいずれも仕組みを説明するための一般的な目安です。材料グレード、下地の状態、地域、施工数量により変動します。負担区分の最終的な判断は契約内容と個別の状況によります。特定の事業者を評価・批判するものではありません。