見積書の「一式」は、悪いものではありません
原状回復の見積書を受け取って、こう思われたことはないでしょうか。
クロス張替え 一式 ○○円
金額は書いてある。でも、その中に何がどれだけ含まれているのかが分からない。高いのか安いのかも判断できない。
先にお伝えしておくと、「一式」という書き方そのものは、業界では珍しくありません。 工事の内容が多岐にわたる場合、項目を細かく分けるとかえって読みにくくなることもあり、実務上の慣習として使われています。手を抜いているとか、隠しているという話ではありません。
ただ、発注する側が判断するための情報としては足りない、というだけです。
そして、その足りない部分は、聞けば教えてもらえます。この記事では、何を聞けばいいのかを5つに絞ってご説明します。
① 単位が「㎡」か「m」か「帖」か
これが最初の確認事項です。同じ「800円」でも、単位が違えば意味がまったく変わります。
クロス(壁紙)は幅0.9mのロール状で流通しており、業界では複数の単位が併用されています。
| 単位 | 一般的な単価の目安 |
|---|---|
| 1㎡あたり | 800〜1,500円 |
| 1mあたり | 700〜1,300円 |
| 1帖あたり | 1,300〜2,300円 |
「㎡単価800円」と「m単価800円」では、同じ部屋でも総額が変わります。見積書に単位が書かれていない場合は、「これは平米単価ですか、メートル単価ですか」と一言確認してください。
これは失礼な質問ではありません。むしろ、単位を明示していない見積書のほうが後でトラブルになりやすいので、確認しておくのはお互いのためです。
② 数量(面積)の根拠
単価が分かっても、数量が分からなければ総額の妥当性は判断できません。
確認したいのは次の2点です。
- 何㎡(または何m)で計算しているか
- その面積はどうやって出したか(実測なのか、間取りからの概算なのか)
原状回復では、壁だけでなく天井もクロスを張り替えることが多く、天井を含むかどうかで面積が変わります。また、開口部(ドア・窓・収納)の面積を差し引くかどうかでも数字が動きます。
「この面積は天井を含んでいますか」「開口部は控除していますか」 — この2つを聞くだけで、数量の根拠がかなりはっきりします。
③ クロスのグレード
クロスには大きく2種類あります。
| 種類 | ㎡単価の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 量産品(スタンダード) | 1,000〜1,200円 | 賃貸の原状回復で最も一般的 |
| ハイグレード品 | 1,500〜2,000円 | 機能性・意匠性が高い |
賃貸物件の原状回復では、通常は量産品が使われます。ハイグレード品が使われている場合、それが必要な理由(ペット可物件、水回りの防カビ、差別化のための意匠など)があるはずなので、確認しておくと納得して発注できます。
逆に、入居者を早く決めたい物件なら、あえてグレードを上げる判断もあり得ます。単価が高い=損、ではありません。何のためにその材料を選んでいるのかが分かっていることが大事です。
④ 廃材処分費・諸経費・養生費の扱い
見積書の下のほうに「諸経費」「現場管理費」といった項目があると思います。ここも中身を確認する価値があります。
原状回復では、次のような費用が発生します。
- 剥がしたクロスや古い床材の廃材処分費
- 通路や共用部を汚さないための養生費
- 職人の駐車場代(都市部では無視できない金額になります)
- 現場管理費・諸経費
これらが単価の中に含まれているのか、別建てなのかで、比較のときの見え方が変わります。A社が「込み」でB社が「別」なら、単価だけを比べても意味がありません。
「この単価に、廃材処分と養生は含まれていますか」 と聞いてください。
⑤ 借主負担と貸主負担の区分
これは金額の話ではなく、誰が払うかの話です。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が実務上の基準として広く使われており、経年変化や通常損耗にあたる部分は、原則として貸主(大家)の負担とされています。
- 家具の設置による床のへこみ
- 日照によるクロスや畳の変色
- 画鋲の穴 など
一方で、入居者の使い方に起因する損耗は借主負担になり得ます。
見積書がこの区分を反映しているかどうかで、大家が最終的に負担する金額が変わります。退去精算と工事発注を別々に進めていると、ここが曖昧なまま進んでしまうことがあります。
「この見積もりのうち、借主負担として請求できる範囲はどこですか」 — 退去立会いの段階で確認しておくと、後の精算がスムーズです。
相場表を鵜呑みにしないでください
インターネット上には原状回復の相場表がたくさんあります。参考にはなりますが、そのまま当てはめると判断を誤ることがあります。
理由は2つあります。
1つは、材料費が動いていること。大手壁装材メーカーが2024年12月に壁装材を10〜15%程度値上げしており、㎡あたり100〜150円ほど上がっています。数年前に書かれた相場記事の数字は、すでに現状と合っていません。
もう1つは、条件が違えば金額が変わるのが当たり前だから。エレベーターのない4階、駐車スペースがない、工期が極端に短い、部分補修が多くて手間がかかる — こうした条件はすべて金額に反映されます。相場より高いことには、たいてい理由があります。
「相場より高い=ぼったくり」ではありません。大事なのは、なぜその金額なのかが説明できる状態にしておくことです。
まとめ:聞くべき5つのこと
- 単位は㎡かmか帖か
- 数量は何㎡で、天井と開口部の扱いはどうなっているか
- クロスのグレードは量産品か、それ以外か。それ以外ならなぜか
- 廃材処分・養生・駐車場代は単価に含まれるか、別建てか
- 借主負担として請求できる範囲はどこか
この5つが分かれば、その見積もりが自分の物件にとって妥当かどうか、ご自身で判断できるようになります。
そして多くの場合、確認した結果「適正だった」と分かります。それが一番いい結果です。納得して発注できるようになるからです。
見積書を、そのまま見せていただいても構いません
とはいえ、「聞き方が分からない」「聞いても専門用語で返ってきて分からなかった」ということもあると思います。
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出典
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
- クロス単価の目安・単位別の相場:インテリアエージェント、ホームプロ、PRONIアイミツ
- 壁装材の値上げ(2024年12月・10〜15%):インテリアエージェント
※本記事の金額はいずれも一般的な目安です。物件の状態、施工の仕様、保証の範囲などにより金額は変わります。特定の事業者を評価・批判するものではありません。