結論:退去時に決めておかないと、真夏に決めることになります

原状回復の見積書で、エアコンはたいてい「エアコンクリーニング 1台 ◯◯円」の1行だけです。金額としてはクロスや床に比べて小さいため、深く考えずに通してしまいがちです。

ただ、エアコンには他の項目と決定的に違う性質があります。入居中に壊れると、その日のうちに動かなければならない設備だということです。

真夏に「エアコンが効かない」と連絡が入れば、修理業者は繁忙で捕まらず、代替機の手配も難しい。入居者の生活に直結するため、待ってもらうこともできません。結果として、選ぶ余地のない条件で急いで手配することになります。

つまりエアコンは、空室のうちに判断しておくと安く、入居中に判断すると高くつく設備です。この記事では、その判断基準を整理します。

まず、年数を2つ確認する

判断の材料は、感覚ではなく年数です。確認するのは2つだけです。

確認する年数何が分かるかどこで分かるか
製造年寿命と、修理できるかどうか本体側面または内部の銘板シール
入居年数ガイドライン上の負担割合契約書

製造年から分かること

家庭用エアコンの補修用性能部品の保有期間は、製造打ち切り後おおむね9〜10年とされています(メーカーにより異なります)。これは「その期間を過ぎると修理用の部品が確保されなくなる可能性がある」という意味です。

したがって、製造から10年を超えた機種は、故障しても修理できずに交換になる可能性が高い。 退去のタイミングで製造年を確認しておけば、「次の入居中に壊れたら交換になる」ことが事前に分かります。

入居年数から分かること

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」では、エアコンの耐用年数は6年として扱われます(減価償却資産の耐用年数に関する省令を参考にしたものです)。クロスやクッションフロアと同じ年数です。

負担割合の考え方は(耐用年数−入居年数)÷耐用年数。入居6年を超えていれば、残存価値はごくわずかになります。

そして前提として、2020年4月1日施行の改正民法621条により、通常の使用による損耗と経年変化は借主の原状回復義務から除外されています。 普通に使っていて効きが落ちた分は、貸主(大家)側の負担です。

クリーニングか、交換か

年数が分かったら、切り分けます。

状態実務上の判断理由
製造から5年未満/効きに問題なしクリーニングまだ十分に使える。清掃で見た目も臭いも戻る
製造から5〜9年/効きに問題なしクリーニング+動作確認次の入居中に寿命が来る可能性を頭に入れておく
製造から10年超/動いてはいる交換を検討部品がなく修理できない可能性。入居中の故障は高くつく
効きが弱い/異音/水漏れ年数を問わず点検清掃で直るものと、故障の前兆は別
タバコ・ペットによる強い臭い分解洗浄、改善しなければ交換臭いは内見時の印象を大きく下げる

※上記は判断の考え方を示すための一般的な整理です。機種、設置環境、使用状況により変わります。

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「まだ動くから交換しない」の実質コスト

10年超の機種を、動いているという理由で残す判断はよくあります。そのとき何が起きうるかを金額に直しておきます。

空室中に交換入居中(真夏)に故障
工事の日程他の原状回復と同時に組める繁忙期。数日〜1週間待つことも
入居者対応不要連絡、日程調整、場合により宿泊費等の相談
選べる機種比較して選べるすぐ入る機種に限られる
募集への影響「エアコン新規交換」として訴求できる訴求にはならない
退去リスク対応が遅れると更新されない要因になり得る

本体と工事費の金額そのものは、空室中でも入居中でも大きくは変わりません。 差が出るのは、それ以外の部分です。特に最後の行——真夏に数日エアコンなしで過ごした入居者が、次の更新で出ていく——は、原状回復1回分と広告費が余計にかかることを意味します。

空室1日あたりの損失の考え方は、原状回復と不動産投資家|費用・利回り・空室期間の関係を整理するで整理しています。

募集条件としてのエアコン

エアコンは、原状回復の項目であると同時に募集の条件そのものでもあります。

  • 設置台数:ファミリー向けで居室数に対して台数が足りないと、内見時に指摘されやすい項目です
  • 新しさ:「エアコン新規交換済み」は、募集図面に書ける数少ない具体的な訴求です
  • 臭い:内見の第一印象を大きく左右します。動作させて確認しておく価値があります

交換を「支出」ではなく「募集条件の改善」として見ると、判断が変わることがあります。 家賃を1,000円上げられれば、年間12,000円。数年で回収できる計算も成り立ちます。

※家賃が上げられるかどうかは市場と競合物件によります。仕組みを説明するための例です。

よくある誤解

誤解①「クリーニングをすれば効きが戻る」

フィルターや熱交換器の汚れが原因であれば、清掃で改善します。ただし冷媒ガスの不足やコンプレッサーの劣化が原因の場合、清掃では変わりません。 この2つは別の問題です。

「クリーニングをしたのに効かない」という場合、清掃の質ではなくそもそも原因が違った可能性があります。年数が経った機種では、点検を先に入れるほうが確実です。

誤解②「耐用年数6年だから、6年で交換する」

ガイドラインの耐用年数6年は、借主に請求できる金額を計算するための年数であって、交換の周期ではありません。 クロスについても同じ誤解がよくあります。

実際の交換の判断は、製造年(部品の保有期間)と動作の状態で決まります。6年で壊れる機種もあれば、15年動く機種もあります。年数は請求の計算に使い、交換は状態で決める。 この2つを分けて考えると迷いません。

同じ誤解はクロスでも起きます。詳しくは原状回復とクロス貼り替え|費用の決まり方と、貸主負担になる範囲をご覧ください。

誤解③「エアコンは入居者の私物扱いにすればいい」

設備として貸すのか、残置物とするのかで、故障時の対応責任が変わります。これは契約書の記載で決まる話であり、後から都合よく解釈を変えられるものではありません。 曖昧なまま運用すると、故障時にトラブルになります。

どちらの扱いにするかは、募集条件と一緒に、空室のうちに決めて契約書に反映しておくのが実務的です。

まとめ

  • エアコンは入居中に壊れると選択肢がなくなる設備。空室のうちに判断する
  • 確認するのは製造年と入居年数の2つ。銘板の写真を残しておく
  • 補修用性能部品の保有期間は製造打ち切り後おおむね9〜10年。10年超は交換を検討
  • ガイドライン上の耐用年数6年は請求額の計算に使う数字。交換の周期ではない
  • 交換は支出であると同時に、募集図面に書ける具体的な訴求になる

退去のたびに銘板の写真を1枚撮っておく。これだけで、次の夏に慌てる確率がかなり下がります。

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出典

  • 民法第621条(賃借人の原状回復義務。2020年4月1日施行の改正により通常損耗・経年変化を除外することが明文化)
  • 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(エアコンの耐用年数6年)
  • 各家電メーカーが公表する補修用性能部品の保有期間(ルームエアコンは製造打ち切り後おおむね9〜10年。メーカーにより異なる)

※本記事の金額・年数はいずれも仕組みを説明するための一般的な目安です。機種、設置環境、地域、契約内容により変わります。設備の扱い(貸与設備か残置物か)は契約書の記載によります。特定の事業者・製品を評価・批判するものではありません。