結論:選ぶ前に、渡す条件を揃えるほうが先です
原状回復の業者選びというと、複数の見積もりを並べて比べる作業を思い浮かべる方が多いと思います。ただ、実務で結果が変わるのは、比べ方そのものよりも「何を渡して依頼したか」です。
渡した条件がバラバラなら、返ってきた見積もりも比べられません。A社は全面張替えで見積もり、B社は部分補修で見積もっていれば、金額に差が出るのは当たり前です。それを見て「B社が安い」と判断すると、後で追加が出ます。
この記事では、依頼前に決めておく5項目と、手配の方法ごとの向き不向きを整理します。
依頼前に決めておく5つのこと
① 工事の範囲
どの部屋の、何を、どこまで。 ここが最も金額を動かします。
- クロスは全面か、部屋単位か、面単位か
- 床は部分補修か、全面張替えか
- クリーニングはどこまで含めるか(エアコン内部、レンジフード、浴室の防カビなど)
- 建具・設備の補修を含めるか
決めきれない箇所があっても構いません。 その場合は「この箇所は判断がつかないので、両方の金額を出してください」と書けば、比較可能な形で返ってきます。曖昧なまま渡すのと、曖昧だと明記して渡すのは、まったく別のことです。
② 仕上がりの水準
次にどういう募集をするかで、必要な水準は変わります。家賃を上げて狙うのか、現状維持で早く決めたいのか。
同じ「クロス張替え」でも、量産品のクロスと機能性クロスでは㎡単価が違います。どちらが正しいということはなく、募集戦略と噛み合っているかどうかです。
③ 完了希望日
これを書かない依頼が、非常に多い項目です。 金額だけを聞けば、金額だけが返ってきます。
家賃7万円の部屋なら、空室1日あたり約2,300円が失われています。着工が2週間遅れれば約32,000円。工事費の差がそれ以下なら、早いほうが手残りは多くなります。
※月額を30日で割った単純計算です。仕組みを説明するための目安です。
④ 支払いの条件
前払いか、完了後か、分割か。特に初めて依頼する相手の場合、ここを先に決めておくと双方が動きやすくなります。
業者側にも事情があります。材料を先に仕入れる工事では、一定の前払いを求められることは珍しくありません。不当な要求ではなく、資金繰りの話です。 だからこそ、事前に握っておく項目になります。
⑤ 連絡の方法と頻度
遠方の物件であれば、ここが工期に直結します。
- 着工時・完了時に写真を送ってもらえるか
- 追加が発生しそうなとき、着手前に連絡が来るか
- 連絡手段は何か(電話のみだと、日中に動けない方には負担になります)
「追加が出そうなときは、作業前に一度ご連絡ください」——この一言を最初に伝えておくだけで、完了後に想定外の請求が出る事態はかなり減ります。
手配の方法は4つ。どれが正解ということはありません
不動産投資家(大家)が原状回復を手配する方法は、大きく4つあります。保有戸数、物件までの距離、かけられる時間、いまの取引関係によって、合う方法は変わります。
| 方法 | 向いている場面 | 負うことになるもの |
|---|---|---|
| 管理会社に任せる | 遠方の物件/保有戸数が多い/時間をかけられない | 手配の中身が見えにくくなる。内訳を聞く手間は自分で取る |
| 地元の工務店・職人に直接 | 物件の近くに住んでいる/長く付き合える相手がいる | 探す手間、品質のばらつき、繁忙期に動けないリスク |
| 原状回復の専門業者 | 賃貸の回転が速い/同じ仕様で繰り返し発注する | 小口の単発だと優先度が下がることがある |
| マッチングの仕組み | 相見積もりを取りたいが探す手間を減らしたい | 相手が初対面になる。仕組み側の担保が必要 |
複数の見積もりを比べること自体は、不動産投資では一般的な手続きとして広く推奨されています。 大手の不動産メディアでも、修繕費を抑える方法として定番のアドバイスになっています。
ただ、実際にやろうとすると手間がかかります。探して、連絡して、現地を見てもらって、日程を合わせて。「やったほうがいい」と分かっていても続かないのは、そのためです。
なお、確認した結果「いまの業者の金額は適正だった」と分かることも多くあります。 それはそれで価値のある結果です。相場を知っていれば、次からは安心して任せられます。
管理会社そのものの選び方については、不動産投資家が管理会社を選ぶときの基準|見るべき7つのポイントで整理しています。
見積もりを受け取ってから見る3か所
条件を揃えて依頼できていれば、比較は難しくありません。見るのは3か所です。
| 見る場所 | 確認すること |
|---|---|
| 数量と単価 | 「一式」ではなく、㎡単価×数量で書かれているか。数量が各社で揃っているか |
| 含まれないもの | 廃材処分・養生・駐車場代・諸経費が単価に含まれるか、別建てか |
| 着工日と完了予定日 | 金額と同じ重みで見る。空室期間はここで決まる |
見積書の読み方は、原状回復の見積書「一式」を分解する|不動産投資家(大家)が必ず確認すべき5項目で詳しく説明しています。
よくある誤解
誤解①「安い業者を選べば、その分だけ手残りが増える」
金額だけで選ぶと、次の2つが後から効いてきます。
- 是正のコスト:仕上がりが粗く、入居後に手直しが発生すると、その費用と入居者対応の手間がかかります
- 空室のコスト:着工が遅ければ、その日数分の家賃が失われます
工事費・是正費・空室損の3つを足した額で比べるのが実務的です。
誤解②「同じ工事なら、どこに頼んでも同じ金額のはず」
同じに見えて、含まれる範囲が違うことがほとんどです。 クロスの㎡単価に既存の剥がしと廃材処分が含まれるか、養生と諸経費が別建てか。この違いだけで、総額の印象は大きく変わります。
単価の安さではなく、総額と範囲のセットで見ること。 これは業者の良し悪しの話ではなく、見積書の書き方の慣習が会社ごとに違うという話です。
誤解③「クロスの耐用年数は6年だから、6年ごとに張り替える前提で考えればいい」
耐用年数6年は、借主に請求できる金額を計算するための年数であって、張替えの周期ではありません。 実際の施工サイクルは入居者の入れ替わりで決まります。平均居住期間は単身で約3年3か月、ファミリーで約5年1か月という調査があり(日本賃貸住宅管理協会)、契約は2年更新が主流です。
つまり6年もつ材料を、使い切る前に捨てている部屋が多いということです。毎回全面張替えをするかどうかは、検討の余地があります。原状回復とクロスシャイニング(クロス塗装)|張替えとの違いと使い分けで、張り替えない選択肢を整理しています。
まとめ
- 比べる前に、渡す条件(範囲・水準・完了日・支払い・連絡)を揃える
- 決めきれない箇所は、決めきれないと明記して両方の金額を出してもらう
- 手配の方法は4つ。どれが正解ということはなく、物件の状況で変わる
- 見積もりは数量と単価/含まれないもの/着工日と完了予定日の3か所を見る
- 比べるのは工事費だけでなく、工事費+是正費+空室損
業者選びは、良い相手を探し当てる作業だと思われがちです。実際には、こちらの条件を明確にした時点で、返ってくる見積もりの質が変わります。
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出典
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
- 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「日管協短観」(平均居住期間の調査)
※本記事の金額はいずれも仕組みを説明するための一般的な目安です。物件の状態、施工の仕様、地域、保証の範囲などにより金額は変わります。本記事は特定の事業者を評価・批判するものではなく、大家が自身の物件に合う方法を選ぶための観点を整理したものです。